(公社)愛媛県宅地建物取引業協会政策流通委員会実施インタビュー
(インタビュー/政策流通委員会副委員長 佐伯大地)
近年では、全国各地で自然災害の激甚化、頻発化により甚大な被害が発生しています。公益社団法人愛媛県宅地建物取引業協会政策流通委員会では、愛媛大学在学中に20歳で学生起業され、様々なメディアでもご活躍中の宇和島地区㈱さくら不動産の野田昌寛さんに平成30年西日本豪雨災害時のボランティア活動を通じて感じたことをお伺いしました。日頃の防災意識を高めていただき、大規模災害時の備えに役立ていただければ幸いです。
道路のアスファルトが黒色から茶色に!?
-当時は宇和島にお住まいだったのでしょうか。
災害発生時、私は愛媛大学の学生でしたので当時は松山にいましたが、自社の管理物件が宇和島にありました。大洲市や吉田町が被害を受けているということでしたので、管理会社さんを通じて状況把握をすることから始めました。友人の自宅であったり、取引先の多い宇和島市吉田町が土砂災害や床下浸水の被害に遭ったという報告を受けました。
-ボランティア活動は大学の募集を通じて応募されたのですか。
そうですね。愛媛大学が教職員・学生混成チームでボランティア活動を行うということで、参加者を募集していたので応募しました。その時、私は大洲市へ派遣されました。そこでは主に物資の仕分け、積み込み作業をお手伝いさせていただきました。当時の写真があれば良かったのですが、ボランティアで現地へ行かせていただいていたので写真を撮るという状況ではありませんでしたから、当時の写真は残っていません。大学がマイクロバスを手配して、バスで現地に行きます。到着するとそこで作業をされている方がいらっしゃいますので、その方の指示を仰ぎながらまずは自分ができることをさせていただきました。
-災害発生から何日後頃に行かれたのでしょうか。
大学のボランティアですので、まずは現地の安全を確認できてからということだったでしょうから、発生直後、ということはありませんでした。そのためマイクロバスで移動する際は、大洲までは比較的スムーズに流れましたが、大洲市内に入ると、物資を運んでいる車も多かったので各所で渋滞が発生していました。また、砂埃が凄かったです。道路のアスファルトが黒じゃないんです。茶色に見える。よく見ると泥で茶色になっているんだと気付きました。その時は信号も動いていなかったように思います。ボランティアは、30名程で参加しました。宿泊できる施設もありませんでしたし、日帰りでした。
-どういう作業をされていたのですか。
私が派遣された場所は体育館だったと思います。そこで物資の仕分けをお手伝いしました。また、そこから必要な場所へ配送しなければなりませんので、公民館行きの荷物の積込作業等のお手伝いもありました。主に肉体労働でしたが、現地に行ってみると、ずっとその作業をされている方、何日もお風呂に入ることができていない方、大変な状況の中で作業をされている方が大勢いらっしゃいました。僕たちは作業が終われば自宅に帰ることができましたからしんどいなんて言えないな、と感じました。そこでの活動を通じて、自分でも誰かの力になれるんだ!という経験は、今後の人生において意味のある時間だったと思っています。
災害時こそ自発的な行動が求められる。事前準備の大切さを痛感
-何が一番大変だったのでしょうか。
そうですね。物資の担当でしたから送られてきた沢山の段ボールの仕分けをしたのですが、トイレットペーパーもあれば、キッチンラップ、衣類、いろいろな種類の物資が混じっていたので、仕分けが大変でした。企業から送られてくる物資は、トイレットペーパー10個入った段ボールが100箱ある、等、仕分ける物資の数も多かったです。また、物資をお届けする側も初めて会う人の集まりだったし、お荷物を取りに来られる方も被災されている方ですから、当然気持ちに余裕なんて持てない状況でしたので、どうしても現場がピリピリした雰囲気になってしまいます。食事もゆっくりできませんでした。また、中にはご家族を亡くされた方もいらっしゃったと思います。僕たちはそういう中で作業を行いますので、被災者の方に寄り添えるよう細心の注意を払う必要がありました。物資はトラックでどんどん全国から運ばれてきます。開けてみたら中で割れている物があったとか、お水でも賞味期限が切れている物が混じっていたり、ということもありました。もちろん直ぐに送れるものを、ということで送っていただいたお気持ちは非常にありがたいものです。これは僕たちが選べるものではありません。そう言いつつ、仕分けをして、次の場所へお届けする中で、賞味期限の確認をする必要は生じます。また、被災された方へ荷物をお届けするのに、ご自宅を訪問させていただくような場合もありましたので、そこで食べ物をいただく場合もありました。その時に、これは食べても大丈夫か?と考える瞬間がありました。ありがとう、という気持ちで出していただいているということは十分に理解をしています。でも、賞味期限であったり、アレルギーであったりを確認せずに口にしてしまうと体調を崩してしまう可能性もあります。そこで自分が体調を崩してしまうと次の作業が進まなくなってしまいます。ですからお気持ちはお預かりした中で、それぞれがその場で指示を仰がなくても自発的な行動が求められる場面であったように思います。企業だと災害時のBCPの作成であったり、ひとつひとつの事前の行動が大事になってくるんだな、ということを思い知らされました。
最初の何日かは大学のボランティアとしてお手伝いをさせていただきましたが、その後は、松山から吉田町の公民館へトイレットペーパー等の物資を企業として送らせていただくということをしました。
-ボランティア活動をしている中で、復興が進んでいるな、と感じる節目はありましたか。
自分が実際に住んでいたわけではないことと、自社物件がある宇和島市もさほど大きな被害がありませんでしたのでその節目は分かりにくかったですね。僕たちが外から見るのと、現地に住まわれている方が感じることは当然に違います。僕たちが復興が進んできたな、と思っても現地にお住まいの方は、まだまだ以前の生活のペースに戻れないと感じることはあると思いますから中と外での温度差はあると思います。
今回の災害は水害でしたから、土埃は凄かったです。その埃のなかにいろいろなものが舞っているのですから。そういう雰囲気を見てボランティアの方の中でも体調を崩される方もいらっしゃいました。
-避難所へ物資を届けるということもあったのですか。
公民館に避難されているところに届ける作業がありました。区切っているといっても部屋ではありませんし、段ボールで区切りをしてプライベートスペースを何となく確保している、という感じで、もちろん空調もありません。劣悪という言い方はしてはいけませんが、大変な状況の中、現地の方、ボランティアの方、行政の方が行動されている状況は、大変だなという印象を受けました。トイレは仮設トイレを行政が早々に設置をしてくださっていましたが、避難所では洗濯が十分にできないという状況もあったように思います。
「検討」ではなく「決断」を
-ボランティア活動をされていて大変に感じたことはありましたか。
皆さまの大変そうな表情ですね。何とか力になれないものか、と何度も思いました。ストレスがかかる中、更にストレスがかかる仮設住宅での生活を余儀なくされています。今、宅建協会に入会して、団体として何ができるんだろうと考えた時に、民間賃貸住宅の借り上げで受け入れ態勢を直ぐに作れたり、新しいお住まいへの移送手段を準備する等、少しでも被災者の方が元通りのペースに戻してあげられるお手伝いをすることはかなり大切なことなんじゃないかというのが肌感覚としてあります。
-宅建協会は全国にあります。愛媛県でも10地区に地区連絡協議会があります。野田さんたちのように若い世代の方がスケールメリットを活かしてできるんじゃないかと思うことは何でしょうか。
ビジネスにおいて、経営資源の4要素がヒト・モノ・カネ・情報だと言われます。「ヒト」については、大学生でもボランティアに行くのですから、会員の方も集まりやすいと思います。「カネ」については、スケールメリットを活かして、寄付金を集めることができるのではないかと思います。「情報」については、近年、SNSが発達しているので割と早く現地の情報なんかは入手できると思います。「モノ」については、不動産と非常に密接であると思います。リンクしやすい。例えば、大洲市が被災したという場合、SNSを活用して情報を発信する。現場の地区が一刻も早い決断をして受け入れ体制を整え、どれだけ早い段階で復旧できるか。日頃から共助の精神を蓄えていくことが僕らにできることなんじゃないかと思います。
こういう言い方をしてはいけませんが、検討してから、となるとどうしても決断が遅くなるように思います。しかし、即断行動ができるというのは、事前のBCPがしっかりできていないとできません。事前のBCPを協会として、それぞれの会員が1企業として作っていけることが次への第一歩に繋がるような気がします。今、災害は豪雨だけでなく、地震、噴火、それ以外にも大規模な土砂災害等、ハザードマップで予想されているよりも深刻な被害が発生している時代です。事前の準備、行動。それを継続して管理できる状況作りが非常に大切です。
事が起こってからアタフタする、これは災害時に限らず、会社経営でも起こりうることではないでしょうか。それはリスクプランがないからだと思います。大きな会社だと顧問弁護士がいたり、そういうことを専門に対応する部署があったりすると思うのですが、ほとんどは社長さんがいて、社員は3~4名。全体で5名くらいの規模の会社が大半だと思います。そうなると、そういうことに割く時間と余裕がないというのが現実だと思うんです。その時に何をするか。セミナーを開催するということをされている協会や企業も多いと思います。でも、そのためだけになかなか来られないですよね。来ていただいたとしても聞いて終わり。どうにかしないといけないな、と思ってそのままになってしまいます。そこからいかに次の1歩を踏み出すことができるか。ここが一番大事だと思っているところなのですが、同時にここが一番体力を使うところでもあるんです。この一番体力を必要とする場面に、いかに協会が会員と並走できるのか。この体制をどう作っていくのかが大切なんじゃないかと思います。
また、地区ごとにラインを活用して一斉に連絡がつくようにする等の取り組みをすると、情報共有がもっとスムーズにいくのではないかと思います。
インタビューを終えて
野田さんは学生の時に起業されていることもあって、新しい視点で協会活動を捉えていらっしゃるなと感じました。「考えるよりまず、やってみる」やって分かることがほとんどだからと満面の笑顔で力強くお答えされた姿が頼もしく、とても印象に残りました。
行動する前に事前にしっかりと計画をしているから即断・即決・即行動ができるのだと思います。協会は、会員に寄り添い、並走できる存在となり、会員にとってのベストパートナーになっていけるよう役職員一人ひとりが考えて行動できるようになっていきたいと思いました。
本日はありがとうございました。